⑩舞台セットの話しⅠ | 第三回公演の記録

さて、今回の公演では、アマチュアシアターとしては、はじめての舞台セットが必要とされました。

 

まだたった3回しか公演をしたことがないので、はじめての、というのも大げさなのですが、舞台セットに凝るとお金がかかるし、わたし自体、舞台美術や大道具等には暗いものなので、なるべくなら避けたいという思いがありました。

 

しかし、今回の演目では、避けては通れないものでした。

 

 

まず舞台の中央に六畳の部屋があり、その中央に二段ベッドがあります。

 

その前にはちゃぶ台があり、下手(舞台向かって左側)奥がキッチンで、上手(舞台向かって右側)奥が部屋の出入り口となっています。

 

さらに、台本の設定では、天井が設置してあって、二段ベッドの二段目からその天井の板を動かして、天井の中にもぐりこむことができ、しかもそこから部屋の中を覗くことができるとあります。

 

特にこの天井裏にもぐったり、覗いたりするのは、どうしたら表現できるのだろうと考えました。

 

本谷有希子さんの舞台では、実際に、天井を作って、そこに潜り込めるように作りこんでいるようでした。

 

しかし、私たちの使う劇場は、天井を作りこむほどの高さもないし、広くもありません。

 

またそんなセット作るなんて、わたしにはできないし、ましてや業者に頼んだら、大変お金がかかってしまうし、どうしたらいいのだろうと悩みました。

 

しかし、ここの仕様がしっかりできていないと、立ち稽古も進められないし、そのまま進めたら立ち稽古の意味がなくなってしまいます。

 

こうしたことは、なるべく立ち稽古がはじまる前に、クリアしておかなければならないことでした。

 

butaiで、わたしが考えたのは、部屋と舞台の奥から1m位のところに部屋の「壁」を立て、二段ベッドは、その壁に沿って、設置し、天井から覗く時は、役者が、部屋から出て、壁の裏に回って、踏み台か何かにのぼって、壁の後ろから、顔を出す、ということにして、天井に登って覗くというところは、あきらめようと考えていました。

 

だから、二段ベッドは、今回のために買って、壁は、ベニヤとかで貼り合わせて、それくらいなら、わたしでもできるかなあと考えていました。

 

 

いずれにせよ、まずは劇場のスタッフにプランを相談しようと思いました。

 

そこの劇場は劇団が運営していて、何かいいアイデアがもらえるかもしれないとも思っていました。

 

劇場のスタッフで運営劇団の主宰の方にプランを提示してみたところ、いいアイデアをもらいました。

 

「二段ベッドから天井にもぐる、というのは、お話を聞いてみて、今回のお芝居の上で、大事な部分なのではないかと思いました。

 

二段ベッドから、壁を乗り越えて、壁の裏側に行き、そこから覗くというのはやったほうがいいと思います。

 

壁の裏には脚立を置いておいて、それに乗り移るというのはどうでしょうか。

 

そして、天井の板をずらすというところは、役者のしぐさと、板をずらすを音を効果音として使うことで表現できるのではないかと思いますよ」。

 

そうか!脚立という手があったか、そして天井を開けるのは無対象行為にして、効果音を使えばいいんだ!とさすがのベテラン演出家のアイデアに、先が開けたような気がしました。

 

しかしそれはそうとしても、二段ベッドから、面積の小さい脚立の踏み台に乗り移るなんて、すごい危険なんじゃないですか、と訊くと、ベテラン演出家は、ぼくが書いた図面を見ながら「この位置だったらちょうど真上に鉄棒が通っているはずだから、それに掴まる形でなら、きっと乗り移りできるんじゃないかな」と答えてくれました。ははあ、そんなこともあるのかと感心しながら聞いて、よしこのアイデアで試してみようということになりました。

 

そして、壁の作り方も教わりました。壁は、高さ2mで幅が、3.6mで、結構、大きい壁です。

 

ベニヤを切ったり、貼ったりしながら作るのですが、でも少しずつ時間をかけて作ってゆけば、公演までには間に合うのではないかと思いました。

 

それと壁は最終的にはペンキでベージュ色に塗らなければなりませんでした。

 

 

そして、二段ベッドから、脚立への乗り移りは、実際に実現可能であるかどうか、役者を連れてきて、劇場で実験してみようということになりました。

 

その役者とは、ゴンジでした。わたしが一番気にしていたのは、ゴンジは、左の足先と手の先に、障がいをもっていて、いわゆる健常者よりもバランスが悪いのです。

 

そんな彼に、高いところからの移動ができるだろうか、すごく心配でした。だからまずは、実験してみて考えようと思ったのです。

 

ido確か5月頃、第一回目の劇場での実験をやりました(結局全部で4回位ゴンジと一緒に劇場に足を運びました)。

 

舞台となるところに、脚立を2つおき、一つは、二段ベッドの替わりに、もう一つは壁の裏に置く脚立です。

 

そして、高さ2mの壁の替わりに、ベニヤを劇場のスタッフさんと、わたしが手で持って支えて、その状態で、そのベニヤを乗り越えて裏の脚立に乗り移ることができるのか、実験したのです。

 

一見したところ、脚立(1.8m)は高いし、2mの壁はさらに高いので、これは、ちょっと難しいのではないかと思いました。

 

しかしベテラン演出家さんが言っていたように、天井には、バトン(角材)とか、鉄の棒みたいのが張り巡らされていて(それを使って照明機材とか、幕を吊るすのです)、二段ベッドから脚立に乗り移る場所の真上には、掴まるのにちょうどいい、鉄棒が一本通っていたのです。

 

そして実験してみて、それを掴みながら(それを支えにしながら)だと、うまく乗り移りができることが分かったのです。

 

で、それはそれでよかったのですが、その実験中、終始わたしは、その演出家さんの指示で動く形になってしまいました。

 

壁の高さも2mにすると決めたのも、その演出家さんの意見でした。

 

どういうことかというと、実はぼくは、空間的なことをイメージするのがとても苦手で、そういう話は中々、頭に入ってこないのです。

 

または、色々言われてもなかなかイメージできないで、ついてゆけないことが多いのです。

 

今回の実験も、演出のわたしがリーダーシップを発揮してやるはずだったのに、そんな風ですから、結局、そのベテラン演出家さんがいうから、きっとそうなのだろうという、責任ある演出者としてはあってはならない態度になってしまったのです。

 

壁の作り方とか、それの立て方とかも、その後で、相談したのですが、やはりイメージが掴めず、話がうまく進みません。

 

それでさすがのその小屋の演出家さんも、「君ではなくて、もっと日曜大工とかに明るい人がやったほうがいいんじゃないかなあ」と言いました。

 

しかし、男は、わたしとゴンジの二人だけだし、ゴンジはそういう手先を使うようなことは無理とわかっていたので、どうしてもやるとしたら、わたし以外あり得ませんでした。

 

だからそのベテラン演出家に言いました、「そんな人はいません、舞台作りは、わたしがやるしかないのです」。

 

彼は、苦笑していましたが、実際、十分に壁の作り方とかも理解できていないわたしは、とりあえず、その場は帰って、家で、もう一度その時言われたことを、よく整理する必要があったのでした。

 

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