台本が決まったので、2月は、演出の準備期間でした。
本が決まったからと言ってすぐに稽古を始めることはできません。
まずは、演出者の方で、先行して、戯曲理解と演出プラン、そして稽古スケジュールを練ります。
その間も隔週のレギュラーの稽古はやりますので、稽古や仕事以外に時間を作って、演出の作業をするのです。
本当は2カ月ほしいところでしたが、台本選定でスケジュールが押してしまっていたので、2月中に、自分なりのイメージを作らねばなりませんでした。
稽古スケジュールは以下のようになりました。
読み合わせ:3月-4月
立ち稽古:荒立ち:5月-8月(8月から毎週)
抜き稽古:9月-10月前半
通し稽古:10月後半-11月
本番:最終稽古:11月30日(金)有給休暇
本番前日:12月1日(土):小屋入り、仕込み、場当たり、ゲネプロ
本番:12月2日(日)2ステージ公演
またキャスティングは演出者のわたしが決めました。書いておくと、
緒川奈々瀬:みほ、金森梓:しろれさ、山根英則:ゴンジ、番上貴男:めぐさん、です。
3月に入り、ついに本番の稽古が始まりました。
まずは台本の読み合わせです。読み合わせの意味は、戯曲の理解を深めてもらうこと、演出者のイメージを伝えること、そして、戯曲になれてもらうことです。読み合わせを多くやっていると、立ち稽古になってからも、比較的早くセリフを覚えてもらえます。
3月一回目の稽古。役者は既に台本を読んできておりますので、早速、テーブルを囲んで読み合わせをはじめました。
そして、今回は、今までの公演に比して、上演時間が長くなることが予想されたので、時間を測ってやりました。
一回目の読み合わせの感想ですが、ああ、結構いい感じじゃん、と思いました。
レギュラーの稽古では、シェイクスピアとか、難しめのものをやっていた甲斐があって、日本人の書いた日本語のセリフは既にかなりこなせるようになっているのを実感しました。
各役者も、びっくりする程、役とのギャップがあるような読み方をする者もいなかったかと思います。
特に、番上役のめぐさんは、しっかり台本も読めていて、大体イメージどおりでした。
「おお、いいじゃないか!」と内心うれしくなりました。
めぐさんは、ATで生まれてはじめて芝居をはじめたのですが、知らない間に上達していてくれたようでうれしかったです。
もちろん、彼はATに加わってから、いつも熱心に稽古に参加していました。
読み合わせの時間ですが、その日、2回の読み合わせで、大体1時間40分位でした。
これから本番の上演時間を推測するに、10分プラスして、1時間50分位じゃないかな、ということになりました。
おお、長いじゃないか!第一回目の公演は、劇場企画オムニバス公演で30分間、第二回目は、AT単独公演で、1時間15分のものをやりました。
それに比して今回は、1時間50分ということで、今までになく大幅に大作となりました。
わたし自身は、2時間近くも観客に観てもらう自信は正直ありませんでした。だからなるべく短くした方がいいと思っていて、通し稽古までいって、仮に2時間を超えるようなら、シーンのカットもありうると覚悟しました。
こうして、初めての読み合わせは終わりました。そしてその直後、再び悪夢が起きたのです!
一回目の読み合わせがあって、ちょうど、一週間後位に、めぐさんから電話がありました。
電話越しに神妙な面持ちでいるのがわかったので、「どうした?」と声をかけると、「実はですね、4月から、出向先が移動になりまして、新しいところは日曜日出勤なのです」とめぐさんが言いました。
なんと!この期に及んで日曜日出勤のところに移動になるなんて!
アマチュアシアターは、日曜日に稽古をやるので、日曜日に仕事がお休みなのが大前提です。
結論は明らかでした。
日曜日出勤になってしまっためぐさんはもう、アマチュアシアターの活動には参加できないし、もちろん、12月公演には出演できないということです。
ああ、この一年間あんなに熱心に参加してくれていためぐさんが不参加になるなんて、がっかりでした。
しかし、めぐさんはもっと無念だろうし、公演のことも気にしているだろうから、ぼくもすぐに切り返しました、「ああ、そうなんだ、それじゃあ、残念だけど、アマチュアシアターの活動からは離れるということでいいね」と言いました。
めぐさんは「はい」と答えました。
そして、番上役が抜けてしまうことも気がかりだろうと思ったので、とっさに「番上役はね、ぼく(けいちゃん)が引き継ぐからね、心配しないで」と伝えました。
めぐさんがATの活動から離れ、その代わり、演出者のわたしが、番上役をやるなんて!再び窮地に陥ったATでした。
番上役のことですが、わたしも役者みたいなことはある程度できるのですが、演出をやりながら出演をするというのは、かなり難しいことなのです。
わたし自身も役者をやるなら、演出者にきちんと演技を見てもらいたいという思いが強く、演出兼役者では、それは無理です。
またもう一つ、わたしは体が弱く、そもそも役者として稽古に臨み、本番をこなすことが体力的に可能なのかという心配もかなりありました。
端役ならともかく、大きな役でしかも、2時間近くあるボリュームのある芝居です。
そんな芝居にぼくが役者として出て、かつ演出もやるなんて、体力的に相当厳しいだろうと思いました。
しかしここまで来て、「乱暴と待機」をやめて、再び、3人芝居の台本探すというのも相当きついなあと思いました。
やはりリーダーでもあるぼくががんばるしかないと思ったのでした。
そして、問題はもう一つありました。
アマチュアシアターの公演の費用は、基本、参加メンバーの等分負担でまかなうことになっています。
原則一人最大5万円を公演費として出してもらうことになっています。
ということは、演出と役者4人を合わせて、25万円でその経費の大部分をまかなうということです。
実際にはそれに維持費で積み立てたお金と、本番に入る入場料が加わりますので、予算30万円で公演をやることになります。
わたしのATでの今までの経験では、やはり一つの公演をうつのに最低30万円は予算としてほしいところです。
ところが、めぐさんが抜けてしまうことによって、マイナス5万円になってしまうので、全体としては、25万円の予算で公演を実現させなければならなくなり、これはかなり厳しいのです。
したがって現実的には、事情をメンバーに話して、一人6万円出してもらうことを納得してもらうことになります。
しかしそれでも、30万円には届きませんし、やはり一人上限5万円とうたっているのに、6万円のお願いをするのは、申し訳ないし、実際に出すのが難しい人もいると思いました。
そんなこんなで、どうしよう、ということになってしまいました。