③本番の稽古 | 第一回公演の記録

稽古全体の流れと各配分を書くと、①読み合わせ(本読み)(2~3か月)②荒立ち/返し稽古(4か月)③通し稽古(1か月)、となります。

 

 

①読み合わせ

 

読み合わせの主眼は、台本全体の理解、各役の理解がメインになります。

ですが、まずは、セリフをいうことの基本からやってゆきました。

それは、まずは棒読みでもいいから正確に読むこと、声を張って読むこと、等です。

 

マミコとりんごの一回目の読み合わせでは、まずは、とにかく好きに読んでみましょう、なにも言わないから最後まで読みましょう、とやったのですが、二人とも声が小さくてまるでお葬式のような読み合わせになってしまったのを思い出します。

 

ばかでかい声を出す必要はありませんが、舞台演技である以上、少し声を張って、つまり大きめに声をだすということが必要なのです。

 

無論、腹式発声の訓練が十分にされていないということもありますが、役者が意識して声を出せばだいぶ違いますし、小劇場はその名の通り、狭いですので、十分訓練された声でなくても、少し意識して声を出していればアマチュアでも十分にお客さんに声を届けることはできるのです。

 

それができたら、次は、単なる棒読みではなく、セリフの意味を理解しながら読む、更には、せりふや役のニュアンスを加味しながら読む、といったように進んでゆきます。

 

こうして演出と役者で芝居全体の共通のイメージを作ってゆきました。

 

 

②荒立ち

 

荒立ちとは、立ち稽古ですが、あまり細部にこだわらずに、荒く全体の立ち位置や動き等を決定してゆく、段階です。

ここで、一旦、はじめから最後までの動きを全部つけてしまいます(大体2か月から3か月かかりました)。

 

荒立ちでは、特にマミコなど初舞台でしたので、動きがぎこちなく、はじめは手取り足とりでしたが、それは当然だし、はじめの方ほど時間がかかるのは、りんごも含めて予想していたので、特にてこずるといった感はなく(演出としては)、また、立ち稽古も最後のほうになるとだいぶ2人とも動きがこなれてくるようになっていました。

 

返し稽古とは、荒立ちが終わった後、再度あたまから、今度は、じっくりと細部にこだわって、ひとつひとつのシーンをじっくり固めてゆく段階です。ある程度納得いくまで何回でも返して(戻して)やります。

 

さて、この段階でATとして、特徴的なのは、どうしても2週間時間があいてしまうので、せっかく動きをつけても、次の稽古では、役者が50から60%は、忘れてしまうということです。

 

普通の劇団の稽古なら、一度つけた動きを役者が翌日そんなにも忘れてきたら「なんだ!」ということになるでしょうが、ATの場合は、むしろこれは必然的なことで、避けることはなかなか難しいものがあります。

 

2週間の間、役者が家で毎日復習して稽古していれば忘れることはないかもしれませんが、普段は、勤労者としてフルタイム(あるいはそれ以上)働いているメンバーにそこまでのことを求めることはできませんし、それを強く要求したり、ましてや覚えていないのを叱ったりすることは、勤労者中心のアマチュアシアターとしてはあってはならないことなのです(もしそんなこと要求されたら、ぼくも含めてみんなアマチュア演劇活動は止めざる得なくなります)。

 

そういうある種の非効率は覚悟の上で、稽古をやってゆくというのがATのスタンスです。

そして、確かに荒立ちで、一通り全部動きを付けるまでは、毎回前の復習に時間をとっていましたが、荒立ち/返し稽古も後半になるにつれ、マミコもりんごも動きが漸く、体の中に覚えられはじめて、だんだん底上がりされてゆくのが感じられました。

 

③スケジュール調整の日々

 

稽古日は、すでに日程表を作って、役者に配っていましたが、なにしろ、勤労者、つまりみんな会社員なので、仕事の状況や会社の都合で、スケジュールは多々、変更となりました。

 

また特に荒立ちの前半は、役者2人いないと稽古にならないので、ひとりが出てこれない状況になるとその日の稽古が中止になるということが前日、時には、当日に決まることもありました。

 

しかしこれは少なくてもATにとっては想定内のことで、あっていいことですので、むしろ、こういう稽古日程の調整等の作業自体がATの活動の中心の一つといってもいいと思います。

 

調整役は主にぼくがやりましたが、この作業をもし負担とか余計な仕事、と考えていてはATの活動、つまり勤労者中心のアマチュア演劇活動は不可能なのだということを、発起人でもあるぼくは肝に銘じてやっていました。

 

たとえば、予定していた稽古日にりんごの社員旅行が急きょ入ってしまって、そういう理由で予定していた稽古日を変更したこともあります(すでに6月のことです)。

あるいは、りんごが、システムの納品が間近で、終日残業、土曜日も出勤している状況が続いていた時には、メールで、

 

(明日の稽古はだいじょうぶ?毎週休日出勤が続いているのであれば休む時間は必要だし、自分にとって大切なものを大切にすることは大事なことだから、もし休みが必要であれは、それはりんごが判断して、それをぼくに伝えてくれればいいから。)

 

と送りました。

 

ATはアマチュアの演劇活動グループです。演劇活動を最優先するという考え方はしていません。

 

仕事も大事、休養も大事、大切なひとや こととの時間も大事、それが前提で、その上で、お互いなんとか時間を作って、演劇活動をしよう、というのが基本スタンスです。

 

ですから、決して、日曜日休みだからと言って、疲れきっているのに稽古に出て来いとは言えないし、何か月もデートもしてないのにそれでもそれを断って稽古に出て来いとも言えないのです。

 

そしてそれは、社会人としての大人の判断に委ねるということであり、メンバーの判断を信頼するということでもあります。

 

④通し稽古

 

さて仕上げは、通し稽古ですが、この段階自体は説明するまでもないと思いますが、ATとしてはこの段階でどんな特徴があったかというと、今回の公演の『鰐』、男と女の二人芝居ですが、絹子(女役)に比して、片桐(男役)のセリフが圧倒的に多いのです。

 

比率で言うと3:7位で片桐のほうがセリフが多いのです。

 

絹子役のマミコのほうは、通し稽古の早々には(本番の2か月位前でしょうか)ほぼセリフが入っていたのですが、一方片桐役のりんごのほうは、結局、本番の一週間前までセリフが入りませんでした。

 

まあ、常識的には本番の1週間前までセリフが入っていないというのは、あり得ないことと思いますが、システムエンジニアというタイトな仕事をしているりんごにとっては、家でセリフを覚える時間をとるのは大変、というかそんな余力がほとんど残っていないというのは容易に想像がつき、2週間前の稽古の時点で、セリフが入っていないりんごをみて、

 

(うーん、これは、最悪、セリフが入るのは、2日前位だな、まあ、2日前でも、前日でもとにかく本番に間に合えばいっか~)

 

みたいなことを演出として覚悟しはじめていました。

 

このころには、もう本番が、7月30日の月曜日夜7時ということが分かっていました。

 

ですので直前のスケジュールとしては、本番は、メンバー全員有給休暇にして、本番直前最後の土日は二日間連続して稽古をする予定でいました。

 

だから、最後の2日間で集中してセリフをいれる時間をとればと思っていたのです。

 

ところが、1週間前の稽古のはじめの通し稽古で、ついにりんごは一度もプロンプ(セリフの介添え:役者がセリフが出てこない時に、スタッフがセリフの頭のところを教えてあげること)の助けもなく、ラストまで演じ切ることができたのです。

 

(わあー、セリフはいったねー!!ぱちぱちぱち!!!

 

(暫しりんごと二人で喜びをかみしめる))

 

ということで、直前の稽古を待つことなく、ついに一週間前に至って、りんごは片桐のセリフを全部覚えたのでした。

 

そのあとも通しをしたらダメ出し、通しをしたらダメ出し、を繰り返し、幸い、芝居は30分と短いので、通し稽古は、稽古場を昼夜とってあれば、1日3、4回はできたのです(しかしそれ以上は、お互い疲れちゃってもう無理)、一週間前の稽古と直前の2日間の稽古で通しを10回以上は、やれたのではないかと思います。

 

そして嬉しかったのは、その間にりんごの演技が目覚ましく良くなったことです。

 

というのもそれまでは、通し稽古といってもセリフを思い出し思い出し、あるいは、プロンプをつけてもらいながらやっていたので、セリフのことに気持ちを奪われ、どうしても演技に集中できなかったのでしょう、それが、セリフがはいったとたん、次第に今までやっていなかったような動きやしぐさ、表情が現われ、もちろんそれは的を得た動き・しぐさ・表情で、つまり、やっとりんごの本来もっている演技のセンスが芝居に表れだしたのです。

 

りんごの芝居がぐっと芝居らしくなったのでした。

 

そして、一週間前の稽古の2回目の通し稽古が終わった段階で、

 

(そうか、ここまできたか、このくらいのものを本番で見せれたら、まあなんとかATとしては及第点だなー)

 

と演出として思っていたのです。

 

それは、当然役者にも伝えました。

 

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