立ち稽古:通し稽古(10月後半~11月)(後編)

今回の公演の稽古の中で、最後にぶち当たった、困難について書いておきます。

困難と言うとちょっと大げさですが、実は、芝居を一つのものに仕上げていく上ですごく重要なことです。それは稽古場での音出しのことです。公演で使う音・音楽、ここでは合わせて音源と言いますが、この音源は、荒立ちが終わるころには、完全に決定しておりました。そして稽古しながら、MDプレーヤーを使って、必要な場所では、音を出してゆきます。

BGMの場合もあれば、着信音のような音もあるのですが、それが芝居のきっかけになることもあります。ですので、適宜音を出しながら稽古をしてゆくことになるのですが、通し稽古の前までは、主にその音出しは、わたしがやっていました。

しかし、通し稽古となると、わたしがやるわけにはいかなくなるのです。わたしは演出者として、今度は、芝居の方を見ることだけに専念しなければならないのです。プレーヤーをいじっていては、演技を見損なってしまうし、演出者には、芝居の頭から最後まで(音響効果も含めて)を観客として見る必要があるのです。そのためには、わたし以外に音出しをしてくれる人が必要なのです。もちろん立ち稽古の初めから、音出しスタッフがわたしの他にいてくれることがベストですが、そこまでは贅沢をいっていられません。でも少なくとも、通し稽古の時だけは、音出しの人が必要なのです。
そして音出しスタッフが必要な理由は、もうひとつあります。通し稽古になったら、一回通すdameのに時間がかかるので、随時止めて、ダメ出しをすることはできません。ですから、芝居の
頭から最後までのダメをノートに書いてゆくのです。そしてそれを通しが終わった後に、まとめて役者に伝えるわけです。観客として見る姿勢は必要ですが、だからと言って漫然と芝居を見ているわけではないのです。このダメの書き出しの精度が要するに芝居全体の精度を上げてゆくことに直結するのです。ですからダメの書き出しに集中するためにもどうしても音出しスタッフが必要なのです。

 

今回の公演では、このポジションで手伝ってくれるスタッフが二転三転してしまって、結構冷や汗かきました。どうも音出しだけの手伝いと言うのはしんどいみたいです。まあそうですよね、芝居をみるというよりも、台本と演技のにらめっこで、きっかけを逃さないよう、いつも緊張していなければならないのですから。そのせいか、音出しのスタッフについて、結構今回は綱渡りだったのです。途中でやめたいと言ってきた人や、稽古では手伝ってくれたのに、結局本番に見に来てくれないお手伝いさんもいました。

本番の音響のオペレーションは、わたしの友人が好意で引き受けてやってくれることになっていました。しかし、彼もアマチュアで社会人ですから、あまり束縛しちゃいけないなとおもって、今回の公演では、本番の2週間前から稽古に参加してくれるようにお願いしていたのです。しかし今回はそれまでの音出しスタッフの調達にてこずってしまったので、やっぱりこれからは、これまで通り(彼には、第一回公演、第二回公演も手伝っていただきました)、彼には1か月前からお願いしようと思いました。2週間前の稽古から彼が入ってくれた時は、ホッとしました。しかしまあ、その友人も、定職をもった社会人ですので、今後彼にお願いしなくても、公演を実現できるような環境を作っていかなければならないというのは課題でもあります。いずれにせよ、通し稽古に入ってからの音出しスタッフは必須だということですね。

 

通し稽古も、半ばを過ぎたころ、少しずつ、本番へ向けてのゴールが見えてきました。今までの公演でも、通し稽古期間中のある時点で、ああ、(芝居の質が)ここまで来たか、これ位のことが本番で出せれば、及第点だよなあ、という瞬間がありました。そんな瞬間が今回の稽古の中でも来るのだろうかと、内心、ドキドキしながら、一方で楽しみにしながら、あるいは、その瞬間がどうか来てください!と祈りながら、通し稽古に立ち向かっていました。

で、結果いつだったか定かではありませんが、まだ、通し稽古は2日間位は残っていた時に、ああ、ここまで来たか、という瞬間が来ました。ホッとしました。役者にもその旨伝えて、いまやった位のことが本番で出せれば、アマチュアシアターとしては及第点だろう、出せるように、後もう少し、稽古がんばりましょうと言いました。

ただ、芝居の質、とか偉そうなこと言っても、それはアマチュアの演出者のわたしとしての判断であって、わたしがそう思っても、またそれが本番で出せても、それが観客となってくれた方々にとって満足のいくものであるかはわかりません。それはわたしだけの都合なのかもしれません、ひどい芝居だなと思いながら、本番を迎えたくないという思いが演出者としてはあったからです

 

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